高山病対策について
高所ではいかなる薬物もその使用には慎重でなければならない。特に中枢神経に作用するようなものには気をつけたい。最近、中高年登山者に魔法の薬と評判なのが、ダイアモックス(薬剤名アセタゾラミド)であるが呼吸中枢を刺激し呼吸を促進させる作用があり、これさえ飲めば高山病を防げると信じる信奉者も多い。しかし、国際登山医学会では、予防としてのダイアモックスは例外を除き、すすめてはいない。余裕のある日程さえとれば高所には十分に対応でき、薬に頼る必要は無いという理由からで、使用がすすめられる例外とは:
1)救助などで急激に高度をあげなければならない人。
2)過去に何度も高度障害を経験した人。
3)夜間の周期性呼吸で睡眠を妨げられる人。
dissassociative痛み
ダイアモックスへの過信から高山病の症状が出ていても、登高を続けた結果重篤な高山病に陥った例は多々ある。薬に頼らない自然な馴化がやはり一番であると考える。
また、このダイアモックスは高山病対策の薬としてはマイルドなものであるが、それでも副作用はある。多いのが手先の痺れ感、頻尿、味覚の変化などである。またスルフォンアミド系の薬物であるので、この薬剤にアレルギーのある人は服用できない。
痛みのツールと危篤状態の患者
予防におけるダイアモックスの服用方法もまちまちである。もともとが利尿剤であることから、夜間の頻尿による睡眠不足を防ぐために朝一回の服用を説く医師もいる。しかし、主な目的は呼吸中枢を刺激して夜間の換気量を増やすことにある。薬の半減期(血中の濃度が半分に減少する時間)が10時間なので、朝服用するとその夜の効用は期待できない。一日750mg(3錠)以上でないと効果がないという報告もあるが、経験的に250mgで痺れや多尿などの副作用も少なく、効果も同等という説が、体重の軽い日本人には適当であるかと思う。予防には朝、晩、12時間ごとに125mg(半錠)づつ、一日の計が250mg(1錠)という服用だ。しかしまだ本格的な至適投与量の比較研究はなされていない。
慢性的な痛みのために使用される薬
専門的な薬としては脳浮腫の治療にデキサメサゾン(商品名デカドロン)というステロイド剤が使われている。映画「バーティカル・リミット」でも生死を分ける薬として登場したが、映画ほど劇的には効かないようだ。しかし、1996年のエベレスト大量遭難では、それなりの効果はあったと言われている。リバウンドなどの危険性があるので、医師の指示のもとで使用されたい。また肺水腫の治療にはニフェジピン(商品名アダラート)が使われるが、これも血圧が下がるなどの副作用があり、医師の指示が必要である。最近は衛星携帯電話の携行が僻地の高所では常識化しているので、緊急時の対応としてこれらの劇薬も用意しておき、衛星電話で医師の判断をあおぎながら使用することになる。自己判断で使うことは危険だが、知識は持っておくべきであろう。
急性高山病の症状のひとつとして不眠があげられる。体力を消耗するトレッキングで眠れないというのは辛いものである。日本の山では最近睡眠薬を使うことが多いようだが、高所では呼吸抑制を起こす可能性があり危険だ。不眠の原因として周期性呼吸の場合があるので、ダイアモックスを睡眠薬の代わりに服用をすすめる医師も多い。
他にもイチョウ葉エキスの服用で急性高山病の発症率が半分になった、またアスピリンの予防投与で頭痛の発症率を50%から7%へ減少させたという報告もある。漢方薬を予防に使われる方も多いが、比較研究はないようだ。
しかしなるべくなら薬物に頼ることなく、体調を整えて余裕のある日程で高度馴化をとげるトレッキングを楽しむのがベストであると考える。
0 コメント:
コメントを投稿